
アパレル業界の店舗運営は、長年「経験と感性」に支えられてきました。
しかし近年、人口減少に伴う人手不足、消費行動の多様化により、 “勘と経験に頼る運営” から 、限られた人的リソースのなかで最大の成果を生むための “データに基づく運営” への転換が求められています。
この転換を後押しするのが、リテールDXです。
POSシステムや在庫システム上の売上・在庫データ、AIカメラなどで取得可能な来店データなど、店舗運営のあらゆるデータを活用し、現場と本部、経営層が共通の指標で意思決定を行う──、こうした「データやデジタル技術を活用した、ビジネスのプロセス変革(DX)」に臨むことが、事業をドライブするうえでは不可欠となってきています。
本記事では、アパレル業界に焦点をあて、店舗運営の課題と、それを解決するデータ活用のあり方を、 実際の事例とともに紹介します。
なお、以下の記事では、店舗DX・リテールDXについても解説しています。DXいついて理解を深めたい方は、併せて参考にしてみてください。
アパレル店舗運営を取り巻く3つの課題
属人的な判断が多く、再現性が低い
アパレル業界では、売場づくりやVMDの調整、在庫判断などが店長・販売員の経験値に依存しているケースが少なくありません。「誰がやるか」で成果が変わってしまう構造が残っており、こうした感覚に頼る運営は、一見柔軟に見えても、特定の人への依存を高めてしまうために再現性と持続性の欠如を生みます。
多店舗間における
本部とエリアマネージャー・店長現場の間で、リアルタイムなデータの情報共有が行われてない場面も多く見受けられます。こうした状況下では売上や在庫の変動に対する即応性が低下するほか、双方で情報認識や意思決定にずれが生じてしまいます。
データが“活用されない”構造
アパレル業界では、売上や在庫などのデータを「見る」ことにとどまり、それを基にした判断や行動、検証が定着しにくい傾向があります。これは、商品構成やVMD、接客といった感覚や経験に依存する業務領域が多く、データを意思決定の根拠として活用する文化が育ちにくいためです。
また、販売現場では短期的な売上達成が優先され、データをもとに中長期で改善する習慣が後回しになりやすいことも一因です。
データが変える店舗運営の仕組み
こうした課題を乗り越え、データを有効活用している企業では、店舗運営にどのような変化が起きているのでしょうか。以下にて、データ活用による変化について、いくつかみていきましょう。
店舗現場の可視化:AIカメラで来店・滞留・入店率などを自動計測し、店舗現場の状況を数値で把握
意思決定の高速化・共通化:売上・在庫・来店数などの複数ソースのデータを活用し、本部と現場の双方が同じデータに基づいて迅速な判断を行う
改善サイクルの定着:感覚に頼っていた「取組みの成否」をデータで裏づけ。やりっぱなしではない「改善」を定着させる
既述したように、アパレル業界は、感覚や経験に依存する業務領域がまだまだ残されているのが事実です。それゆえに、感覚で判断した取組みの成果をデータで “見える化”して検証できる状態をまずつくり、そこから徐々に、取組みの判断をデータに基づく姿へと変えていくことが、データを有効活用していくうえでのポイントです。
上で挙げた「店舗現場の可視化」で検証に必要なデータを取得し、「意思決定の高速化・共通化」で誰もが必要データにアクセス可能な環境を整える。データの有効活用に向けては、まず、こうしたアプローチのもとで「データで “見える化”して検証できる状態」にすることが推奨されます。
実践事例──データが支えるアパレルの店舗運営
以下に挙げる取り組みは、先ほど述べた「データで “見える化”して検証できる状態」を整備した好例となりますので、ぜひ参考にしてみてください。
LOVELLESS(株式会社三陽商会)
セレクトショップ「LOVELLESS」では、店舗スタッフの感性とデータを融合した売場づくりを実践。AIカメラで取得する来店・滞留データをもとに、ブランド体験を再設計しました。属人的だったVMD判断を数値化し、“感性を再現可能な知見”へ変換しています。
AEON
イオンリテール株式会社では、複数店舗にわたる来店・購買データを統合し、エリア単位での施策検証を実施。人手不足や店舗間のばらつきといった課題に対し、データに基づく店舗運営で“全体最適”を実現しています。
画像認識や音声認識を組み合わせ、商品スキャンから金額提示、支払い処理、領収書発行までを自動化。スタッフの関与を最小限にし、顧客自身がスムーズに会計を完結できます。無人店舗やコンビニ、カフェチェーンなどで導入が加速しています。
まとめ:データ活用が根付くアパレル運営へ
アパレル業界では、その特性から、これまで感覚や経験に基づく意思決定が重視されてきました。しかし、顧客ニーズの多様化や人材不足が進む今こそ、データを軸とした運営への転換が求められています。
単に数字を見るのではなく、仮説を立て、施策を打ち、結果を検証するサイクルを日常的に回すことが重要です。データが “感覚を裏づける道具” として浸透すれば、現場と本部の視点をつなぎ、属人的な判断に依存しない持続的な店舗改善が可能になります。
※ABEJA Insight for Retail の導入成功事例
















