
複数の店舗を運営していると、POSの数字は毎日手元に届きます。売上、購入件数、客単価。
それでも「先月はなぜ売上が落ちたのか」という問いに、POSだけで答えられることはほとんどありません。
小売店舗のAIカメラは、POSには記録が残らない領域——店の前を通った人、店内に入った人、そして入店したものの購買には至らなかった人の割合をデータとして残すための仕組みです。
ABEJA Insight for Retail のAIカメラで取得できるのは、店前通行量・来客人数・来客属性・滞留の4つのデータです。なぜこの4つなのかは、実店舗の売上が次のように分解できるからです。
売上高 = 店前通行量 × 入店率 × 買上率 × 客単価
この売上分解式の4つの指標のうち、POSが答えられるのは、いちばん右の客単価だけです。買上率でさえ、分母になる来客人数を計測していなければ算出できません。左の2つ——何人が店の前を通り(店前通行量)、そのうち何人が入店したのか(入店率)に至っては、別途計測の仕組みを用意しなければ、データとして把握することはできません。
ABEJA Insight for Retail は、AIカメラを用いて、来客人数・属性(性別・年齢)・店前通行量などを可視化し、データに基づく意思決定を行うための店舗分析・運営支援サービスです。
この記事では、4つのデータそれぞれの中身と計測の条件、そこから何が見えるようになるか、そして導入前に決めておくべきことを整理します。
目次
POSで見えているのは「買った人」だけ
多店舗を運営していると、月末に各店の売上・購入件数・客単価等の報告が届きます。数字は揃っているのに、店長に「なぜ先月は落ちたのか」と聞くと、返ってくるのは「客足が鈍かった」「天気が悪かった」といった説明になりがちです。
いずれも事実ではありますが、客足がどの程度鈍ったのか、天候によって来客人数がどの程度変化したのかを示す具体的な数字がありません。原因の大きさを測れないため、次に何をすべきかの根拠になりません。
上記は店長の説明能力だけの問題ではありません。POSに記録が残るのは、レジを通った人=購買した人だけだからです。
店の前を何人が通ったのか、そのうち何人が入店したのか、入店したものの購買には至らなかった人の割合はどれくらいだったのか。売上が動いた要因の多くはデータになっておらず、本部も店舗も検証のしようがありません。
同じ「売上が10%落ちた」でも、店の前を通る人が減ったのか、通ってはいるが入店しなくなったのか、入店しているが買わなくなったのかで、打つべき手はまったく違います。
なお「既存の防犯カメラで代用できないか?」というご相談もよくいただきます。一般的な防犯カメラの主目的は、映像を記録し、必要に応じて事後確認することです。一方、店舗分析向けのAIカメラは、来客人数や店前通行量などを継続的にデータ化し、分析に活用することを目的として設計されています。両者は設計されている目的そのものが異なります。

▶ 防犯カメラとAIカメラでは、求められる要件も技術仕様も異なります。兼用を検討されている場合は AIカメラと防犯カメラの違いとは? 店舗運営における役割と要件の整理 をご覧ください。
店舗のAIカメラで取得できる4つのデータ
売上を「店前通行量 × 入店率 × 買上率 × 客単価」に分解したとき、POSで埋まらない部分を埋めるのが、以下の4つのデータです。それぞれカメラの設置場所も計測の仕組みも異なるため、まず全体像を整理します。
# | データ | 取得できるもの | カメラの設置場所 | 計測範囲 |
① | 店前通行量 | 店前を通った人数(時間別/日別/月別) | 店舗入口の両端 | 約3〜5m |
② | 来客人数 | 店内に入った人数(時間別/日別/月別) | 店舗入口の上部 | 天井高により変動 |
③ | 来客属性 | 来店客の性別・年代(10代〜50代以上)の構成比 | 店舗の奥側から入口に向けて | 入口から6〜7mの位置で横幅約1〜2m |
④ | 滞留 | 設定エリアの滞留人数(延べ・時間別/日別/週別/月別) | 計測したいエリアを撮影できる位置 | 天井高・設置角度により変動 |
※記載の計測範囲は目安です。実際の計測範囲は、天井高やカメラの設置位置・角度などの環境によって異なります。
① 店前通行量 ― 店の前を何人が通ったか
店舗入口の両端にカメラを設置し、店舗の両端に引いた線を「カウントライン」とします。店の前を横切ってこのラインを通過した人を、店前通行量としてカウントする仕組みです。計測範囲は約3〜5mが目安ですが、天井高や使用する機器によって取得できる範囲は変わります。
店前通行量は、単体で見るよりも「入店率の分母」としての意味が大きいデータです。来客人数が減ったとき、店前を通る人自体が減ったのか、通行量は変わらず入店だけが減ったのか。この切り分けは、店前通行量を計測していなければ成立しません。
② 来客人数 ― 店の前を通った人のうち、何人が入店したか
店舗入口の上部にカメラを設置し、入り口の境目をカウントラインとして、ラインを店内方向に越えた人を来客人数として計測します。天井高によって取得できる範囲が変わるため、導入時には店舗の図面や現地調査により、計測できる範囲を個別に確認します。
来客人数は、店前通行量と組み合わせれば入店率に、POSの購入件数と組み合わせれば買上率になります。4つのデータのうち、最も多くの指標の起点になるデータです。
③ 来客属性 ― 入店したのは誰か
来店した方の顔画像から年代(10代/20代/30代/40代/50代以上)と性別を推定し、統計データとして表示します。カメラは店舗の奥側から入口に向けて設置し、入口から6〜7m離れた場所に設置した場合の計測範囲は、横幅で約1〜2mとなります。
年代推定の精度は±5歳以内です。個々の来店客の年齢を正確に当てるものではなく、店舗全体の構成比や、店舗間・期間ごとの差を見るためのデータとお考えください。想定しているメイン顧客層と、実際に入店している層のズレを確認する用途に向いています。
カメラ画像の取得・利用にあたっては、関連法令やガイドラインを踏まえた適切な対応が必要です。ABEJAでは、店頭やWebサイト等での告知を含め、適切にご利用いただくためのご案内を用意しています。
④ 滞留 ― 店内のどこで足が止まったか
店内の特定エリアにおける滞留の傾向を計測します。設定したエリアの画角内で一定間隔ごとに人数をカウントし、その累計(延べ人数)を時間別・日別・週別・月別に可視化する仕組みです。計測範囲の目安は、天井高2.5m・設置角度45度の場合で3m×4.5m×2.5m、設置角度60度の場合で5m×12m×6mとなり、こちらも店舗の図面や現地調査をもとに測定範囲を確定します。
1つの画角内に複数のエリアを設定できるため、同じ売場のなかで棚ごとの滞留を比較する使い方も可能です。

なぜ約90%の高精度が出せるのか
ABEJA Insight for Retail のAIカメラは、店前通行量・来客人数・来客属性(性別)において、約90%という高い精度を持っています。
これは、カメラを設置しただけで出せる精度ではありません。設置から運用まで、次の工程を経て担保しています。
現地調査 → 設置位置の選定 → 機器の設置・施工 → 計測ライン・画角の調整 → 運用開始・真値チェック → 継続確認
実務上の要になるのが、設置後の真値チェックです。目視で数えた実測データとシステムの計測値を比較検証し、品質基準をクリアしてから運用を開始します。あわせて、設置画角と高さの最適調整、店舗ごとの計測ライン・画角の個別調整、日本人データを用いた学習モデルの継続的な改善によって精度を維持しています。
運用開始後も、システムによる常時監視とABEJAの保守担当者による有人確認を組み合わせ、異常を検知した際はリモートを中心に一次対応を行います。店舗運営の意思決定に使うデータは、「取得できること」よりも「安定して取得し続けられること」のほうが重要と考えています。

※ 本記事に記載の計測精度・安定稼働率・データ取得率は、一定期間・一定条件下における実績値であり、設置環境、ネットワーク状況、機器構成、店舗の運用状況等により変動する場合があります。
4つのデータは、組み合わせて初めて指標になる
4つのデータ(店前通行量・来客人数・来客属性・滞留)は、それ自体が答えを出すものではありません。店前通行量を分母に、来客人数を分子に置くと入店率が算出できます。来客人数を分母に、POSの購入件数を分子に置くと買上率が算出できます。売上分解式は掛け算ですが、個々の指標は割り算で求める、という関係です。
▶ 入店率・買上率をはじめとする各指標の定義、計算式、業種別の目安は 【店舗経営】店前通行量・来客人数・入店率の定義と計算式 にまとめています。ぜひご覧ください。
AIカメラで何ができるようになるか|4つのデータで見えること
AIカメラを設置してデータを取得すること自体が目的ではありません。データをもとに課題を特定し、適切に店舗運営のPDCAサイクルを回すことが目的です。取得した4つのデータによって、これまで検証できなかった、どのような事象が見えるようになるのかを整理します。
入店率 ― 売場の入口装飾を変えた効果が測れるようになる
店前通行量と来客人数の両方を計測すると、入店率(来客人数 ÷ 店前通行量)が算出できます。入店率は、店の前を通った人のうち何人が入店したかを表す指標であり、VMDや店舗前面のディスプレイを変更した際の、誘客力の効果測定に使えます。
これまで「入口のディスプレイを変えたら、なんとなく客足が良くなった気がする」で終わっていた評価が、変更前後の入店率の差として数字で残るようになります。
時間帯別の推移 ― 想定しているピークと、実際のピークのズレが見える
POSの購買データだけを見ていると、店舗のピークタイムは「売れた時間」で定義されます。ここに来客人数を重ねると、前提が変わることがあります。
たとえば、POSでは購買のピークが15〜17時に出ていたため、その時間に人員を厚く配置していた。ところが来客人数を見ると、実際の来店ピークは14時から立ち上がっていた——というケースです。14〜15時はピークが始まっているのに売場の体制が整っておらず、購買につながらないまま帰った来店客がいた可能性が見えてきます。
売れた時間と、人が来ていた時間は同じとは限りません。両者のズレは、来客人数を計測して初めて把握できます。
来客属性 ― 実際に入店している顧客層が見える
来客属性を確認することで、想定しているメイン顧客層と、実際に入店している顧客層との違いを把握できます。期間別・店舗別に構成比を比較することで、VMDや商品構成、マーケティング施策を見直す際の判断材料になります。
滞留 ― 注目されている棚が特定できる
指定したエリアごとの滞留傾向を可視化することで、より注目されている棚を特定できます。売場のなかで人が集まるエリアと、通過されるだけのエリアを把握できるため、主力商品の配置や、販促物を置く位置を検討する材料になります。
さらにPOSの売上データと突き合わせれば、「滞留は多いが売れていない棚」の特定や、「注力商品や施策」の評価が可能になります。施策が狙い通りに機能していたか、棚づくり・品揃え・接客のいずれに要因があるのかを検討する起点になります。

▶ 入店率を起点にした改善の具体策と実際の分析事例は AIカメラの来客人数計測で失敗しない!入店率から導く店舗改善の具体策 で解説しています。
どのデータを取得するかは、店舗の課題によって変わる
ここまで、店前通行量・来客人数・来客属性・滞留の4つのデータを紹介してきました。ただし、すべての店舗で4つすべてのデータを取得する必要はありません。
ABEJA Insight for Retail は機能単位でのご契約となるため、取得するデータの種類と必要なカメラ台数は、店舗ごとに設計します。導入前に次の3点を決めておくことが重要になります。
① 何を測るか
「とりあえず全部」ではなく、解きたい課題から逆算して取得するデータを選びます。
たとえば「売場の入口装飾を変えた効果を測りたい」のであれば店前通行量と来客人数、「狙っている客層が実際に来店しているかを確認したい」のであれば来客人数と来客属性、というように、目的によって必要な組み合わせは変わります。
取得するデータの種類と設置台数は、そのまま費用の前提にもなります。
▶ コストがどのような要素で構成されるかは AIカメラ導入の費用相場|店舗分析向けに押さえておくべきコスト構造と参考費用 に整理しています。
② どこに設置するか
前述のとおり、店舗の天井高と設置角度によって計測できる範囲が変わります。そのため、店舗の図面や現地調査をもとに、実際にどこまで計測できるのかを確認したうえで台数と設置方法を決定します。
入口が複数ある、天井が高い、店前の通路が2面ある——といった物理的な条件によって必要な台数は変わります。同じ企業の店舗であっても、店舗ごとに設置内容は異なるとお考えください。
③ 誰が、どの頻度でデータを見るか
導入前の検討で最も抜け落ちやすいのが、誰がデータを見るのか、どの頻度で判断するのかというポイントです。データを取得しても、誰がいつ何を判断するために見るのかが決まっていなければ、可視化しただけで施策は止まってしまいます。
店長が週次で確認するのか、SVが複数店を横並びで見るのか、本部が月次で振り返るのか。主体者と判断の頻度、そして何と比べて良し悪しを判断するのか(前年比か、店舗間比較か、KPIまで分解した予算か)を先に決めておくかどうかで、導入後の定着や効果は大きく変わります。

▶ 導入後の活用支援体制まで含めた比較の観点は 店舗分析向け AIカメラの選び方|導入で失敗しない比較ポイントと重視すべき基準 で整理しています。
課題の整理から、ABEJAが伴走支援を行います
「どのデータから取得すべきか」「どのような順番で改善を進めるか」は、店舗の業態・立地・運営体制などの様々な要因によって答えが変わります。
ABEJAのセールス担当が、お客様の課題やありたい姿をうかがったうえで、必要な機能・設置台数・進め方を含めたご提案を行います。店舗の図面をご用意いただければ、何をどこまで計測できるのかを含めて具体的なご説明が可能です。
よくあるご質問
Q1.撮影した画像はどのように扱われますか。個人が特定されることはありませんか。
A1.来客属性の推定結果は、個人ごとの記録ではなく統計データとして表示されます。一方で、AIカメラで取得する画像は個人情報保護法上の取り扱いが必要となり、同法では利用目的の公表が義務付けられています。そのため、カメラ画像を取得している旨を店頭で告知いただくことが前提となります。ABEJAではQ&Aサイトの運営を含め、適切にご利用いただくための対応を用意しています。
Q2.データの精度はどのくらいですか。
A2.来客人数・店前通行量がいずれも約90%、性別推定が90%以上、年代推定が±5歳以内です。設置後に実測の目視データと比較する真値チェックを行い、品質基準をクリアしてから運用を開始します。
Q3.POSデータとの連携は必要ですか。
A3.買上率を算出する場合は、POSの購入客数データの取り込みが必要です。店前通行量・来客人数・来客属性・滞留の4つは、カメラ側で取得できます。
Q4.まず何から測るのが良いですか。
A4.多くの場合、来客人数は店舗分析の基本となるデータの一つです。来客人数を取得すれば、POSデータと組み合わせて買上率を算出できます。ただし、最適な計測項目は店舗の課題によって異なるため、目的に応じて必要なデータを設計します。
Q5.1店舗だけの導入でも意味がありますか。
A5.単店でも、前年比や施策実施前後の比較は可能です。ただし、同じ施策でも店舗によって結果の出方は異なります。1店舗の数字だけを見て「効果がなかった」と判断してしまうケースは少なくありません。複数店舗で導入すると店舗間の差を並べて確認できるようになり、施策そのものに効果があったのかどうかを判断しやすくなります。
まとめ:AIカメラ導入は「何を測るかを決める」ところから始まる
ABEJAのAIカメラで取得できるのは、店前通行量・来客人数・来客属性・滞留の4つのデータです。それぞれ設置場所も計測の仕組みも異なり、計測できる範囲は天井高や設置角度によって変わります。
だからこそ導入前に決めるべきなのは、自店の課題を解くために、どのデータが必要かです。
データドリブンな店舗運営を実現したい方は、ぜひ経験豊富なABEJA Insight for Retailチームにご相談ください。
店舗データの可視化から、施策立案・効果検証までをデータドリブンに行うなら、「ABEJA Insight for Retail」をご活用ください。
AIカメラによるデータの自動取得に加え、店舗運営を成功に導くカスタマーサクセスチームが、データの見方、示唆出し、施策立案・実行、振り返りまでのPDCA定着を支援します。
店舗改善の次の一手にお悩みのご担当者様は、ぜひ一度お気軽にご相談ください。
「AIカメラ活用×徹底伴走」の店舗分析ソリューション ABEJA Insight for Retail の詳細資料請求・個別無料相談はこちらから
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※ 本記事に記載の計測精度・安定稼働率・データ取得率は、一定期間・一定条件下における実績値であり、設置環境、ネットワーク状況、機器構成、店舗の運用状況等により変動する場合があります。
この記事の監修者

泉 和成(いずみ かずなり)
株式会社ABEJA
デジタルプラットフォーム事業1部 リテール領域G グループマネジャー
2018年にABEJA Insight for RetailのSales兼Customer Success としてジョイン。
2020年より事業責任者として事業+プロダクトを牽引。
120社以上・1,100店舗以上のデータドリブン店舗経営支援を行い、多くの顧客の店舗経営の変革に携わる。
本ブログでは、「経験・勘・度胸」+データ/テックによる新しい店舗経営の姿を
中心に、記事を監修しています。










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