AIカメラを用いた店舗分析が広がるにつれて、単一カメラで店舗分析と防犯対策を兼用したいというニーズをよく耳にするようになりました。一般的に、分析用途のAIカメラと防犯用途の防犯カメラとでは、求められる要件や技術的な仕様が異なります。十分な知識なしに双方を兼ねた環境を構築した場合、防犯・分析の両用途で、求めるニーズが満たせない環境となってしまう恐れがあります。
本記事では、AIカメラと防犯カメラの違いについて、それぞれの目的、求められる要件、技術的な仕様とともに解説します。適切な環境づくりを進めるうえで、ぜひ参考にしてみてください。
AIカメラと防犯カメラの基本的な違い
店舗に設置されるカメラには、大きく分けてAIカメラと防犯カメラがあります。一見するとどちらも同じ「カメラ」ですが、その目的や求められる性能は大きく異なります。
AIカメラは来店者数や属性、動線を把握するなど、店舗運営やマーケティングのための分析用途に使われます。一方、防犯カメラは不審者の監視や証拠映像の保存など、防犯対策を主目的としています。
用途が異なるため、設計思想や必要となる要件も大きく変わります。このため、両者を兼ねることは容易ではありません。
AIカメラに求められる要件と技術的仕様

店舗におけるAIカメラは、「店舗分析」を目的とすることが一般的です。入店人数や年代・性別といった来店者属性、売場ごとの滞留状況などをデータ化し、店舗改善や施策検証に役立てます。
ここではまず、一般的なAIカメラにおける、求められる要件と技術的仕様について整理しましょう。後段では各項目について、防犯カメラとどう異なるのかを確認していますので、そちらもあわせて参照してください。
AIカメラに求められる主な要件
高精度な来店者カウント:従業員と顧客を区別し、正確に人数を算出できること
属性推定の精度:年齢層や性別などを統計的に推定できること
動線や滞留分析:来店者の経路や滞在時間を可視化できること
リアルタイム処理:ダッシュボードなどに即時反映されること
プライバシー保護:顔を特定せず匿名化・集計する設計になっていること
AIカメラの主な技術的仕様
解像度/画素数:2〜8MP程度(分析に必要な精度を確保)
フレームレート:15〜30fps程度(人の動きを十分に捉える水準)
画角・レンズ:広角(60〜120°)で店内全体や通路を把握
WDR(ワイドダイナミックレンジ):逆光や照明変化に対応する120dB前後
低照度性能:0.1〜1 Lux程度、店舗照明環境に対応
暗視機能(IR):原則不要(分析中心のため)
AI処理能力:カメラまたは保存先のクラウド上でのAI推論による人数カウント・属性推定
保存方式:数値データ中心、映像は必要最低限(短期間で破棄)
通信規格:独自クラウド連携やAPI、BIツールとのデータ連携
セキュリティ:通信暗号化、匿名化処理、アクセス制御
設置性:美観・店舗環境に合わせたコンパクト設計
防犯カメラに求められる要件と技術的仕様

防犯カメラは「安全確保」を目的としたカメラです。不審者の監視やトラブル発生時の証拠記録、異常を検知した際の即時アラートなど、防犯対策に直結する役割を担います。
ここでもまず、一般的な防犯カメラにおける、求められる要件と技術的仕様について整理しましょう。
防犯カメラに求められる主な要件
高画質での識別性:人物の顔や車のナンバーを明確に映せること
信頼性・安定性:24時間365日の連続稼働に耐えること
即時性:異常検知から通知まで遅延が少ないこと
証拠性:映像を長期間保存でき、改ざんが防止されていること
耐環境性:屋外設置でも動作する防水・防塵・耐衝撃性能
防犯カメラの主な技術的仕様
解像度/画素数:フルHD〜4K以上(証拠性・識別性を重視)
フレームレート:25〜60fps(高速動体や証拠性確保のため高水準)
画角・レンズ:設置環境に応じて望遠・ズーム可能なレンズを選択(PTZ対応も多い)
WDR(ワイドダイナミックレンジ):明暗差の大きい環境で人物を識別できる140dB前後
低照度性能:0.01〜0.1 Lux、さらに赤外線(IR)対応で暗闇でも撮影可能
暗視機能(IR):必須(夜間・無照明下での監視を想定)
AI処理能力:一部に侵入検知AIを搭載する場合もあるが、基本は録画・監視が中心
保存方式:長期保存前提(DVR/NVR/NASで数週間〜数か月保管)
通信規格:ONVIF, RTSPなどの標準規格で監視システムに統合
セキュリティ:映像暗号化、強固な認証、改ざん防止ログ管理
設置性:堅牢筐体、大型筐体も多く存在
双方の違い
AIカメラ(店舗分析用途)と防犯カメラ(防犯用途)は、目的に大きな差異があり、設計コンセプトや重点仕様もかなり異なります。ここまで整理してきた技術仕様の相違点について再整理してみましょう。
項目 | AIカメラ(店舗分析用途) | 防犯カメラ(防犯用途) |
解像度/画素数 | 2〜8MP程度(分析に必要な精度を確保) | フルHD〜4K以上(証拠性・識別性を重視) |
フレームレート | 15〜30fps程度(人の動きを十分に捉える水準) | 25〜60fps(高速動体や証拠性確保のため高水準) |
画角・レンズ | 広角(60〜120°)で店内全体や通路を把握 | 設置環境に応じて望遠・ズーム可能なレンズを選択(PTZ対応も多い) |
WDR(ワイドダイナミックレンジ) | 逆光や照明変化に対応する120dB前後 | 明暗差の大きい環境で人物を識別できる140dB前後 |
低照度性能 | 0.1〜1 Lux程度、店舗照明環境に対応 | 0.01〜0.1 Lux、さらに赤外線(IR)対応で暗闇でも撮影可能 |
暗視機能(IR) | 原則不要(分析中心のため) | 必須(夜間・無照明下での監視を想定) |
AI処理能力 | カメラまたは保存先のクラウド上でのAI推論による人数カウント・属性推定 | 一部に侵入検知AIを搭載する場合もあるが、基本は録画・監視が中心 |
保存方式 | 数値データ中心、映像は必要最低限(短期間で破棄) | 長期保存前提(DVR/NVR/NASで数週間〜数か月保管) |
通信規格 | 独自クラウド連携やAPI、BIツールとのデータ連携 | ONVIF, RTSPなどの標準規格で監視システムに統合 |
セキュリティ | 通信暗号化、匿名化処理、アクセス制御 | 映像暗号化、強固な認証、改ざん防止ログ管理 |
設置性 | 美観・店舗環境に合わせたコンパクト設計 | 堅牢筐体、大型筐体も多く存在 |
主な違い
目的の違い
AIカメラは「店舗運営・マーケティングを支える定量データ取得」が目的。一方、防犯カメラは「安全確保・異常抑止・証拠取得」が目的となります。
精度と信頼性の要件
AIカメラ(分析用途)は、多少の誤差を含んでも「傾向分析」レベルで十分なケースが多いですが、防犯カメラ(防犯用途)では「明確性・証拠性」が強く要求されます。
映像品質要件
AIカメラでは、動線把握・属性推定のための適切な解像度や画質があれば十分。一方、防犯カメラでは顔認識やナンバープレート認識などにも耐える高画質・暗所性能が求められます。
プライバシー・法令対応
AIカメラでは属性分析・匿名化設計を通じて個人情報性を低減する設計が不可欠です。防犯カメラでも映像データの扱いは慎重で、暗号化・アクセス制御等が厳格となります。
まとめ
AIカメラと防犯カメラは、同じ「カメラ」でありながら目的も仕様も大きく異なります。AIカメラは「店舗の運営改善に役立つデータ」を得るための分析機器であり、防犯カメラは「トラブルを未然に防ぎ、証拠を残す」ための監視機器です。
両者を兼用しようとすると、求められる解像度・保存要件・匿名化要件などが相反し、コスト面や運用面で大きな負担を招く恐れがあります。そのため、用途に応じて専用のカメラを選択することが、1つの最適解だと言えるでしょう。
店舗運営においては、「売上や施策検証のためのAIカメラ」と「安全確保のための防犯カメラ」を役割分担させ、それぞれの強みを活かした運用を行うことが重要です。









